世界で唯一、FSC®認証※1(森林管理)とASC認証※2(水産養殖管理)という2つの国際的な環境認証を取得した宮城県・南三陸町。近年はTNFD※3にもアプローチするなど、持続可能な町づくりへの取り組みが海外からも大きな注目を集めています。 南三陸町をそんなSDGs先進地に導いたリーダーのひとりである(株)佐久※4の佐藤太一さんに、これまでの道のり、そしてこれからの展望についてうかがいました。
株式会社佐久 専務取締役
佐藤 太一さん プロフィール
南三陸町でおよそ270haの森林を管理、主に南三陸杉、赤松、檜を生産する(株)佐久※4に入社。現在(株)佐久の専務取締役の他、南三陸森林管理協議会※5・事務局長、一般社団法人南三町陸観光協会・副会長、合同会社MMR・代表社員、南三陸いのちめぐるまち学会・学会長、(株)みちのく伊達政宗歴史館・代表取締役社長ほか、南三陸町内外で多岐にわたる活動に参加。(株)佐久に入社以前は山形大学大学院で宇宙線物理学を研究、理学博士号取得。
※1 FSC®認証(Forest Stewardship Council)は、持続的な資源活用を目的に責任ある森林管理を認証する国際的な環境認証制度。森林そのものの適切な管理を認証する「FM認証」(Forest Management)と、認証された森林原材料が適切に加工・流通されているかを認証する「CoC認証」(Chain of Custody)がある。
※2 ASC認証(Aquaculture Stewardship Council)は、持続可能で環境に配慮した養殖で得られた水産物を対象とする国際認証制度。 養殖業者を認証する「ASC養殖場認証」と認証された水産物が、適切に加工・流通されているかを認証する「CoC認証」がある。
※3 TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース/Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)とは、企業・団体が自身の経済活動による自然環境、生物多様性への影響を評価し、リスクや機会についての情報開示を行う取組み。投融資資金を含め自然を保全・回復する方向へ資金の流れを導き経済的にもプラスに働くことを目的とする。
※4 (株)佐久 南三陸町でおよそ300年の歴史を持ち、林業経営を中心に不動産業を営む。主に南三陸町及び旧北上町に所有・管理する約270haの山林で 林業経営や山林の活用した事業を展開。
※5 南三陸森林管理協議会 地域の山が一緒になってFSCなどの国際認証を取得してこそ南三陸の林業と自然に還元できるとし、南三陸町の林業関係者により震災後に設立。
UPDATER
(株)佐久さんと共に南三陸森林管理協議会※5が、2015年に宮城県で初めてFSC認証を取得されたそうですね。FSCの審査とはどんなステップを踏んでいくのですか。
佐藤
まずは計画やマニュアルづくりとか認証機関が求める必要な情報を提出して、その後、審査員が、山林の管理体制や方法がFSCの認証規格に合致しているかを現地でチェックします。認証を維持するには、取得後毎年の年次監査や5年ごとの更新審査にもパスする必要があります。
南三陸町の持続可能な町づくりに情熱を傾ける(株)佐久の佐藤さん。
UPDATER
そうした厳しいチェックを経ているからこそFSC認証の価値があるのですね。再建された南三陸町役場の新庁舎にも認証材が使われているとか。
佐藤
我々がFSC認証を取得したタイミングで南三陸町役場の新庁舎建設の話があって、だったらぜひ認証材を使おうじゃないかと。南三陸町の町有林も認証を取得していたので、南三陸杉をふんだんに使った新庁舎にしようということになりました。
新庁舎建設の建材には認証材を90%以上も使用するプランでしたので、FSC全体プロジェクト認証※6も取得しようとなったんです。
※6 FSC全体プロジェクト認証は、事業体ではなく建築物、土木構造物、イベントステージ、木造船舶など一度だけ建設・製造される対象を認証する仕組み。プロジェクト全体の建材の50%以上にFSC認証材が使用されることが取得の条件。
全体プロジェクト認証を取得した南三陸町役場の新庁舎。
UPDATER
FSC全体プロジェクト認証を取得する狙いみたいなものがあったのですか。
佐藤
流通と認知ですね。林業家だけがFSC 認証を取っても効果は限定的です。
FSC マークの付いた南三陸杉の製品が流通してこそ意味があるわけです。そのためには加工から流通までFSC 認証材を扱う事業体がCoC認証を取得している必要がある。
できるだけ多くの事業者のみなさんにCoC認証取得への理解を広げていくためには、FSC全体プロジェクトも必ず役立つはずだと。
UPDATER
南三陸杉を消費者や企業にアピールするにはFSCマークが付いた製品が流通してこそですものね。
佐藤
南三陸町新庁舎がFSC全体プロジェクト認証を取得したのは、公共施設としては国内初だったんです。話題にも象徴にもなったことで、関係する多くの事業者にFSCを知ってもらえたしCoCの理解にも大いに役立った。
すべての事業者が取得してくれたわけではありませんが、認証材の流通の基礎ができていきました。
UPDATER
南三陸町役場にもメリットがあったでしょうか。
佐藤
当時、視察とかメディアの取材もたくさんあって盛り上がりました。「いのちめぐるまち南三陸」、「持続可能な町づくり」をめざすという、町を挙げての目標もあったので、新庁舎がそのテーマにふさわしい旗印にもなったし行政としてもメリットは大きかったと思います。
UPDATER
その南三陸杉は東京オリンピック2020の公式会場である新国立競技場にも採用されているそうですが、それもFSCからCoCまでの流れが構築できたから実現できたわけですよね。尽力してきた佐藤さんとしては嬉しかったでしょうね。
佐藤
新国立競技場には日本全国の木材が採用されているんですが、宮城県代表として採用されています。もうすごく嬉しかったですね。
日本全国の良材がふんだんに使用された東京の新国立競技場。
UPDATER
南三陸杉のブランディングにも効果があったのでしょうか。
佐藤
南三陸杉のブランド化自体は、父親たちの世代から取り組んでいたんです。歴史的にも、伊達政宗公の時代から良い杉の産地としての伝統もあります。
ただ、名の通った杉材の産地は日本にいくつもあるし、樹齢何百年という天然木に同じ土俵で勝負できるかというと難しい。
南三陸杉は品質だけでなくFSCやTNFDのようなネイチャーポジティブという新たな価値軸でブランドをつくっていくべきなんです。
たとえばpatagoniaさんがこの町で開催するイベントのために製作した記念品の材料は南三陸杉。これもやはりFSCの効果です。
UPDATER
FSC2015年に取得しエシカルブランドとして再スタートして、今年で9年目になりますが手応えはいかがですか。
佐藤
おかげさまでご指名いただく機会は増えました。やはりサステナブルをテーマにしている消費者とか企業からの注目度は高まっています。ほんのり赤みを帯びた美しい杉材をどんどん利用してもらいたいですね。
山林、河川、里、海。地域全体の生物多様性に取り組む南三陸町
さらにネイチャーポジティブな林業をめざす